犠牲なしに電流は流せない。電圧降下が教える電気のシビアな真実
導入:電気にも「代償」がある?
「この世界に”ただで動くもの”はない」
電気の世界でもそれは同じです。
スイッチを入れて電流が流れるとき、実は目に見えない”犠牲”が払われています。
それが「電圧降下」です。
電圧降下とは?
電気回路で電流が流れるときに、配線や抵抗で電圧が減ってしまう現象のことを電圧降下(voltage drop)といいます。
なぜ電圧が下がる?
電線には抵抗があります。
電流が流れると、その抵抗によって電圧が少しずつ失われます。
例えば100V電源を長い距離配線した場合、末端機器では98Vしか届かないようなことが起こります。
この失われた2Vこそが「犠牲」=電圧降下です。
電圧降下を防ぐには?
電圧降下と電力損失をできるだけ小さくするには、次の方法があります。
- 太い電線を使う
電線の断面積が大きいほど抵抗は小さくなります。例えば1.25㎟より2.0㎟の電線を使うと、電圧降下を抑えられます。 - 電線の長さを短くする
電線の長さが長くなると、電圧降下が大きくなります。電線の長さを短くすることで、電圧降下を減らすことができます。 - 流れる電流を小さくする
使用する電流を小さくすることでも、電圧降下を抑えることができます。 - 小電圧(12Vや24V)の場合
十数メートル配線するより配線先で12V/24Vを生成する方が良いです。
例:200V/100Vを数十メートル配線し、24V使用機器付近でAVRで24Vに変換する方法です。
ただし、配線先のAVRなどを格納するBOXを配置するスペースがある場合や金銭的に余裕がある場合のみですが、、
身近な電圧降下の例
電圧降下は身近な場面でもよく見られます。例えば、スマホを充電するときに細くて長い延長コードを使うと、スマホへの充電スピードが遅くなることがあります。これはコード内部の抵抗によって電圧が下がるためです。短くて太いコードに変えると、スマホに届く電圧が改善され、スムーズに充電できるようになります。
また、エアコンやドライヤーなど大電力を使う家電でも、電圧降下によって機器の性能が下がることがあります。これらの家電は特に大きな電流が流れるため、電線の太さや配線距離には注意が必要です。
電圧降下の注意点
配線先の機器が電圧降下しても許容範囲内であれば、対策しなくても良いですが、それは、電圧降下について理解したうえで判断する必要があります。
電圧降下の危険性
電圧降下が大きすぎると、単に電圧が下がるだけでは済みません。配線の抵抗で発生する熱が蓄積し、電線の被覆が溶けたり、最悪の場合は火災を引き起こす恐れがあります。電気工事士などの専門家が配線を設計する際は、電圧降下の計算を必ず行い、法律や規格に適合するよう配慮しています。
また、電圧降下が大きいと、モーターが回らない、照明が暗くなる、電子機器の動作が不安定になるなどの問題が発生します。電気製品の寿命にも影響を与えるため、電圧降下の管理はとても大切です。
電圧降下の計算式
・以下の電圧降下詳細
V=電圧降下
I=電流
L=長さ
S=断面積
17.8=導体抵抗
※JIS C 3001の標準軟銅で導電率97%として17.8Ω・mm2/kmで算出
//簡易式版のみ
R=抵抗
電圧降下の計算式(簡易版)
電圧降下は以下の式で求めることができます。
例
電線の抵抗が0.5Ωで、そこに5Aの電流が流れる場合、電圧降下は次のように計算できます。
つまり、その電線を通ると2.5Vの電圧が失われるということです。
よく第二種電気工事士等では、簡易版を使われることが多いですが、実務で使用する場合は、電線の距離や導体断面積も考慮する必要があります。
電圧降下の計算式(距離含む)
・直流及び単線2線式
補足
35.6=導体抵抗往復分(17.8)×2
・三相3線式
補足
30.8=導体抵抗(17.8)×√3
・直流3線式/単相3線式/三相4線式
まとめ
電圧降下とは、電気を送る際に避けられない現象で、電線や機器の抵抗によって電圧が失われることを意味します。この現象により電力損失が発生し、電気製品の性能に悪影響を及ぼす場合があります。電圧降下を最小限に抑えるためには、太い電線を使う、配線を短くするなどの工夫が有効です。
家庭の配線から工場の大型機器まで、電圧降下はあらゆる電気回路にかかわるテーマです。安全で効率的な電気利用のために、電圧降下の仕組みや対策をしっかりと理解しておきましょう。