サーマルリレーの整定電流の決め方:モーター銘板から逆算する手順
整定電流を適当に設定すると「保護しない」か「頻繁にトリップ」になる
サーマルリレーの整定電流ダイヤルを「とりあえず真ん中」に合わせて終わりにしている現場があります。この設定では、モーターが保護されていないか、正常運転中でもトリップするかのどちらかになります。
整定電流はモーターの定格電流に合わせて決めます。決め方の手順はシンプルです。この記事で整理します。
サーマルリレーの働きを確認する
サーマルリレー(THR)はモーターの過負荷保護を担います。主回路に流れる電流がバイメタル素子を通り、設定値(整定電流)を超えた状態が続くと熱で変形し、接点を開きます。接点が開くとMCのコイル回路が切れ、モーターへの通電が止まります。
なお、サーマルリレーとブレーカーは守る対象も検出する現象も違います。両方が要る理由はサーマルリレーとブレーカーの違いは何か。過負荷保護と短絡保護はなぜ両方必要なのかにまとめています。
電磁開閉器(MS)の構成については電磁開閉器(MS)とは?MCとサーマルリレーの組み合わせを理解するを参照してください。
整定電流(整定値)はTHRの前面ダイヤルで調整します。この値がモーターの定格電流と合っていないと「保護が働かない(高すぎる)」または「正常運転でもトリップ(低すぎる)」が起きます。
モーター銘板の読み方
整定電流を決めるために必要な情報はモーターの銘板にあります。銘板で確認するのは以下の値です。
- 定格電流(A):FLAまたは「定格電流」と記載されている値
- 電圧(V):銘板に記載の電圧と実際の使用電圧が一致しているか確認
- 周波数(Hz):50Hz/60Hzで定格電流が異なる場合がある
例:三相200V・0.75kW・60Hzのモーターの場合、定格電流は4.0A前後です(メーカー・極数により多少異なる)。銘板の電流値を直接読むのが確実です。
注意点として、デュアル電圧モーター(200V/400V両対応等)は、使用電圧に対応した電流値を確認します。200V結線と400V結線で定格電流が約2倍異なります。
整定電流の決め方:手順
- モーター銘板の定格電流(FLA)を確認する
- THRの整定電流範囲が定格電流をカバーしているか確認する(カバーできない場合はTHRの型式を変える)
- ダイヤルをモーターの定格電流値に合わせる
まず確認するのは、使うサーマルリレーの取扱説明書に書かれた整定範囲です。現場ではこれを見ながら選定します。そのうえで一般的な目安として、整定電流はモーター定格電流の100〜110%に設定します。定格ちょうどに設定しておけば、定常運転での意図しないトリップは起きにくいです。
逆に1.25倍や1.5倍に設定してしまうと、モーターが過負荷で熱を持ち続けても保護が働かず焼損につながります。「ちょっと余裕を見て高めにする」のは誤った判断です。
よくあるトリップ原因と対処
① 整定電流が低すぎる
通常運転中にトリップするケースの多くはこれです。整定電流をモーター定格電流より低く設定していると、始動時や負荷がかかった瞬間にトリップします。銘板の定格電流と整定値を照合してください。
② 始動電流による誤トリップ
全電圧始動(DOL始動)のモーターは始動時に定格の5〜7倍の電流が流れます。通常のTHRはこの突入電流を考慮した遅延特性を持っていますが、頻繁な始動・停止を繰り返す用途では熱が蓄積してトリップしやすくなります。
この場合、スターデルタ始動やインバータ始動への変更、または始動電流特性に対応したTHR(クラス10から20相当など)への変更を検討します。
③ 周囲温度が高い
THRはバイメタルの熱で動作するため、盤内温度が高いと設定値より低い電流でもトリップします。盤内温度が高くなる環境では、メーカーカタログの温度補正カーブで補正の要否を確認してください。何℃から補正が要るかは機種で変わるので、ここでは具体的な温度を置きません。
④ 実際の負荷電流が定格を超えている
整定電流は正しいのにトリップが繰り返す場合、モーター側の問題(過負荷・軸受け不良・詰まり等)を疑います。THRは正常に働いており、モーター本体の不具合が原因です。
MCとの選定連携
THRの整定電流範囲とMCの主接点定格は、セットで確認します。電磁接触器の選び方については電磁接触器(MC)とは?仕組みとコイル電圧・主接点容量・補助接点の選び方を参照してください。
MCの主接点定格(AC-3)がモーターの定格出力に合っており、かつTHRの整定範囲がモーター定格電流をカバーできていること。この2点が揃えば保護と開閉の基本構成が成立します。
よくある質問(FAQ)
Q1. サーマルリレーとは何ですか?役割を教えてください。
A. モーターの過負荷保護を担う保護機器です。英語では Thermal Overload Relay と呼ばれ、図面ではTHRと略されます。電磁接触器(MC)が「動かす」役割、サーマルリレーが「守る」役割で、この2つを組み合わせたものが電磁開閉器(MS)です。
Q2. サーマルリレーの動作原理は何ですか?
A. 主回路の電流がバイメタル素子(ヒートエレメント)を通り、整定電流を超えた状態が続くと熱で変形して接点を開きます。接点が開くとMCのコイル回路が切れ、モーターへの通電が止まります。この動作を「トリップ」と呼びます。
Q3. サーマルリレーの配線(回路図)はどうなっていますか?
A. 主回路は電源→MCの主接点→サーマルリレー→モーターの順に直列につなぎます。制御回路側では、サーマルリレーのb接点(95-96)をMCのコイル回路に直列に入れ、トリップ時にMCが落ちてモーターが止まるようにします。a接点(97-98)はトリップ警報ランプやPLCへの異常入力に使うのが定番の構成です。
Q4. サーマルリレーがトリップしたらリセットボタンを押してよいですか?
A. 先に原因を確認してからにします。トリップは故障ではなくサーマルリレーが仕事をした結果で、原因不明のままリセットと再起動を繰り返すとモーターの焼損につながります。整定値と銘板の定格電流の照合、始動電流、周囲温度、実負荷を確認し、対処してから復帰させてください。トリップ直後はバイメタルが熱くて戻らないことがあるので、冷えてから操作します。
まとめ
サーマルリレーの整定電流の決め方です。
- 基本:モーター銘板の定格電流(FLA)を確認し、その値に合わせる
- 目安:定格電流の100〜110%に設定する
- 高めはNG:余裕を持たせてもモーター保護にならない
- トリップが続くとき:整定値・始動電流・周囲温度・実負荷の4点を確認する
整定電流の設定は盤の完成後に見直す機会が少ないため、設置時に銘板と照合して正しく設定することが重要です。
整定電流の計算はサーマルリレー整定電流計算ツールで確認できます。
